にほんばしかわら版 令和3年夏季号
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産経新聞科学部記者 伊藤壽一郎「鋼鉄で武装した甲虫」 車でひいても平気な強さの秘密■ヒートアイランド対策にも活用へ■生物模倣で航空機製造に応用も■2組の凹凸で羽同士をがっちり接合【筆者紹介】伊藤 壽一郎(いとう・じゅいちろう) 東京都生まれ。学習院大学卒業後、産経新聞社に入社し、文化部、経済部、社会部などを経て2002年から科学部。現在は文部科学省の科学技術部門を担当し、原子力から地震、宇宙、物理、化学、生物、ITまで、幅広い分野を取材対象としている。 著書に「生きもの異変 温暖化の足音」(共著、扶桑社刊)、「新ライバル物語 闘いが生む現代の伝説」(共著、柏書房)などがある。 世の中には、「鋼鉄で武装した甲虫(こうちゅう)」と呼ばれ、車にひかれても平気な昆虫がいます。なぜそんなに頑強なのか、東京農工大などの国際チームが詳しく調べたところ、硬い羽や胴体が特殊な構造で互いにがっちり支え合っていることが分かりました。航空機や自動車の強度向上などに応用できるかもしれないそうです。 米カリフォルニア州南部の乾燥地帯に生息するコブゴミムシダマシという体長約3センチの昆虫で、見るからにゴツゴツして頑強そうな体をしています。羽は互いにくっつき合っていて開かず飛べません。体をしっかり覆って、外敵の鳥などから食べられにくくしているそうです。 チームが実際に車でひいてみたところ潰れず、自分の体重の4万倍近くの重さに耐えられると判明。同様に羽が開かない近縁種に比べて2倍以上の強さだったことから、体を殻のように取り囲む骨格の構造を詳しく調べ、頑強さの秘密に迫りました。 電子顕微鏡やコンピューター断層撮影装置(CT)で観察すると、硬い羽の境目は、互いにかみ合って抜けにくい2組の凹凸構造でがっちり接合されていました。一方、近縁種は凹凸構造が1組だけだったそうです。また凹凸部は昆虫の硬い外皮を形成するキチン質と、骨格の強度を高めるタンパク質がからみ合い、多数の層をつくる構造を形成。体にかかった重さをしなやかに受け止めていました。 このほか、羽と胴体の間も表面がざらざらしたやすり状で、滑りにくい構造になっていることや、タンパク質の量が、日本のカブトムシに比べて約1割多いことなども分かりました。 チームは、羽同士をつなげる特殊な層構造が頑強な体を実現していると判断。航空機の材料に使われるシート状の炭素素材を何枚も重ねて端を凹凸でかみ合う形状に加工し、コブゴミムシダマシの羽の接合部分を再現しました。そして、接合の強さを測定したところ、現在の航空機製造で使われている鋲で止める方法より数10%高い強度を実現することが判明しました。研究チームでは、航空機や自動車などの製造に応用すれば、強度向上や軽量化につながる可能性があるとみています。 生物の特徴をまねて、ものづくりに活用する生物模倣(バイオミメティクス)は、カイコからつくる絹糸をまねた化学繊維のナイロンや、オナモミの実の服などにくっつきやすい形状の模倣で生まれた面ファスナーなど、古くから多様な製品の開発に役立ってきた。この構造も、その1例になりそうです。 実はコブゴミムシダマシは今回の研究で、生息している乾燥地帯では貴重な水を、羽内部の特殊な構造の器官に蓄積しているらしいことも分かりました。これも、バイオミメティクスに役立ちそうなのです。 チームによると、硬い羽の表面には微細な穴が無数に開き、羽の内部にある小さな洞窟のような空間につながっていました。雨が降ると無数の穴が毛細管現象のように水を吸い込み、中にためているようなのです。 この水分は生存のために役立てられるほか、晴天時には細かい穴を通って蒸発することで体の熱を奪い、温度が上がりすぎないように調節する機能も担っているのではないかとみられています。地球温暖化によるヒートアイランド現象にあえぐ都心部のビルの壁などに、活用できそうな構造ですね。 チームでは、コブゴミムシダマシはバイオミメティクスに役立ちそうな特徴をまだ秘めていそうだとみて、今後もさらに詳しく調べていくそうです。

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