にほんばしかわら版令和6年秋季
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のが神奈川税務署でした。やる気満々で登庁したものの、配属後しばらくは簿書整理や資料編てつなどの単純作業でした。今考えれば新人の仕事として当たり前なのですが、当時はバブル期の真っただ中で、民間企業に就職した同級生は、まさに「24時間働けます」的に猛烈に仕事をしており、翻って朝から晩まで書庫整理をしている我が身が情けなく、毎日転職することを考えていました。ただ整理の過程で、諸先輩方が残してくれた調査報告書や、顛末書、様々な業種の特色や調査のポイントが記載された資料に触れることができ、大変勉強になりました。また、この新人時代に、「正直者には尊敬の的、悪徳者には畏怖の的」という国税庁開庁時に米国の内国歳入庁担当課長から贈られた有名な言葉を地で行く、敬愛し、末永く自分の目標となる上司、先輩と出会えたことは私にとってかけがえのない宝物です。仕事はもちろん、職員としての心構えなどを、昼は執務室や調査の現場で、夜は役所近くの居酒屋で連日連夜「レクチャー」していただきました。振り返って自分の税務職員として職務に向き合う姿勢や気概は、この神奈川税務署時代に培われたものと思っています。 約5年間、神奈川税務署と品川税務署で調査事務に従事し、国際課税の研修受講を機に、東京国税局、国税庁、税務大学校で、国際課税事務、国際関係事務に長く携わりました。 東京国税局では、調査部で日本を代表する資本金1億円以上の大法人の調査や外国法人の調査、課税部で非居住者課税や国際的な租税回避事案などに取り組みました。また、結果的に最も長く勤務した国税庁では、国際会議や国際協力関係事務、情報交換をはじめとする租税条約関係事務などに携わり、その間にインドネシアのジャカルタで2年間ほど仕事をする機会もありました。さらに税務大学校では、日本の税務職員に対して国際課税の研修を行う一方、開発途上国の税務職員に対しても日本の税務行政や国際課税制度を講義する研修にも携わりました。 中でも一番長く従事したのが租税条約関係事務のうちの相互協議に関する事務です。相互協議というのは、租税条約締約国間で発生した国際的二重課税などを政府間の協議によって解消する手続きです。多くの二重課税は、取引価格操作による外国関係会社への所得移転を防止するための税制、すなわち移転価格税制の執行によるものですが、中には日本と外国を行き来することによって二つ以上の国から居住者課税を受けてしまう人の居住地国を決めるための協議や、源泉課税をめぐる協議などもあります。いずれの協議も、通常条約相手国の担当者との交渉により解決するのですが、終結には数年かかる場合もあり、気力と忍耐力がかなり鍛えられました。 協議に当たって何を大事にするかは人それぞれだと思いますが、私は、誠実さを最も大切にして交渉に当たっていました。協議では自国の立場だけを主張していても、交渉をまとめることはできません。主張すべきことは主張したうえで、相手の立場を理解し、所謂「互譲」の精神で妥協点を探らなければなりません。事案の難易度が増すにしたがって、相手の担当官といかに腹を割った話をできるのかが重要になりますが、そのような話は根底に信頼関係がなければできず、様々な協議を経て、真摯で誠実な対応こそが、言葉や文化の違いを超え大島 博 広報担当副会長�

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